Aiiku Hospital Dept.of Obs/Gyn
出生前検査についての当院の考え方 −特に母体血清マーカーテスト、羊水検査について
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・母体血清マーカーテストと羊水検査は出生前検査に含まれるものであり,その検査の意義を理解された妊婦さんが,検査を行うことを希望する場合にのみ行う検査です.妊婦さん全員が行う検査ではありません. ・ご自分の妊娠中の赤ちゃんの染色体が正常かどうかを心配し,検査をして欲しいと希望される方がいます.初期の流産が起こる時期を過ぎ,順調に発育していることが確認される妊娠12週以降で,現在最も赤ちゃんへの危険性が少なく,最も確実な胎児染色体の情報を得られるのは羊水検査(羊水による胎児染色体検査)です.羊水検査は母体のお腹の表面から細い針を子宮の中まで刺し羊水を20ml程度採取(羊水穿刺といいます)して,その中に混じっている赤ちゃんから剥がれた皮膚や粘膜のもとになる生きた細胞を細胞培養で増やして,その細胞の中の染色体を分析するものですから,結果が出れば染色体については正常であるのか,異常であるのか,異常であるならどのような内容なのかがほとんど正確にわかります.ただし,羊水穿刺は子宮に針を刺すのですから,その刺激や(十分消毒しても)細菌感染により,たとえ赤ちゃんが正常で元気であっても,破水を起こしたりして流産となり,その赤ちゃんを失う危険がある検査なのです.羊水穿刺による流産の頻度は低くて600回に一回程度,高くて200回に一回程度,平均して300回に一回程度起こると報告されています.ですから,羊水検査を行う妊婦さんはこのリスクを十分に承知していてなおかつ希望される場合のみに行うべき検査であるといえます.妊婦さん全員が行うべき検査とはいえない性質の検査です. ・そのような危険を伴う検査なら,自分は羊水の検査をした方がよいのか,しなくてよいのかの判断に迷う妊婦さんも多いと思われます.判断を助ける材料の一つには母体の年齢による染色体異常の頻度のデータがあります.染色体の正常との違いにはいろいろな種類がありますが,頻度として最も多いのはダウン症(普通2本からなる21番目の染色体が3本である場合)であり,母体血清マーカーテストがダウン症を対象にしているため,ここから先はダウン症を中心とした話とします. ・その妊婦さん個人個人のダウン症の児を妊娠している可能性を数値(確率)で示すのがトリプルマーカーテストやクワトロテストとよばれる母体血清マーカーテストです.この検査は母体の採血による検査で,妊娠中の胎児・胎盤から母体血液中に入ってくる3〜4つの物質の量を測ることにより可能性を計算するものですから,胎児には何の危害も加わらないという利点があります.反面,わかるのは可能性(確率)の数値だけです.結果(数値)を聞いて,羊水検査をして染色体を確認したほうがよいくらい心配な数値だ,と考えれば羊水検査を受け,可能性は低くてあまり心配な数値ではないと考えれば羊水検査を受けない,というように判断する材料として使えます. ・当院の母体血清マーカー検査の説明書にもあるように,当院ではこの検査はダウン症を心配される人が(流産リスクのある)羊水検査を受けるのかどうかを決めるための検査ととらえています.ですから母体血清マーカー検査をしてダウン症の可能性を知りたいけれど,どんな数値が出ても羊水検査はしないで産むつもりという妊婦さんも,どんな数値でもやっぱり心配なので羊水検査は受けるのだという妊婦さんもこの検査はできますが,あまり検査をする意義がないと思っています. ・当院では母体血清マーカーテストや羊水による胎児染色体検査は妊婦さんが希望されたときにのみ行う検査としており,妊婦さん全員が受ける検査ではありません.これらの検査については妊婦さんから聞かれた時にのみ検査の説明や実施をすればよいという考えの病院もありますが,「その様な検査があると知っていれば妊娠中に受けたのに,情報が無かったのは不当である」等の声を何回か聞いていた経験から,当院では「検査の存在と内容についての情報提供は行うが検査を勧めたりやめさせたりはしない」ことにしてきました. ・母体血清マーカーテストはその人の妊娠している胎児がダウン症である可能性をかなり正確に確率として示すことはできますが,実際にその胎児がダウン症であるか否かの診断はできません.(したがってこの数値だけで妊娠を継続しないと決めるのは間違っています.) ・検査結果として示された確率値をみてダウン症である可能性が高いと判断するか低いと判断するためにはどこかにカットオフラインを引かなくてはなりません.その位置は個人の価値観によりますので人によりかなり違ってきます.99%以上大丈夫(可能性1/100以下)なら良いと考える人もいるでしょうし,99.9%以上大丈夫(可能性1/1000以下)でないといけないと考える人もいるでしょう.結果が極端に高かったり低かったりすれば判断は容易ですが,中間的な値であればかなり悩む人が出てきます.高いとも低いとも判断がつきかねる人もでてきます.そのため検査前に申込書にあらかじめご自分達が考えるカットオフラインの数値を書いておくことをお勧めしています.結果が出た後での判断をしやすくするためです.病院としては結果の数値を高いと思うか低いと思うかどちらに判断するかを押しつけることはできませんが,カットオフラインの一例としてはアメリカでよく使われている35歳の年齢の妊婦の平均的なダウン症のリスクである1/295があり,当院で検査を外注している検査会社もこの1/295をカットオフラインにしています.よって,結果が1/296ならダウン症の可能性は低い,1/295ならダウン症の可能性が高い,となります. ・胎児がダウン症でないか超音波検査で調べて欲しいという妊婦さんがおられます.妊娠中の超音波検査は胎児,胎盤,羊水などの子宮内の状態をかなり詳しくみることができるようになってきましたが,形態的な情報が中心であり,染色体がわかるわけではありません.ダウン症の赤ちゃんは心臓病を持っていることが比較的多いので,心臓の形態的な異常があるかどうかなどは超音波検査でみることができます.それでも心臓病のすべてがわかるわけではありませんし,心臓病があっても染色体は普通という赤ちゃんは大勢います. ・現在の妊婦健診では超音波検査は欠かせません.胎児の発育は順調か異常はないか,胎盤の位置,羊水量に異常はないかなど妊娠が順調に経過していることを知るための大変有用な検査になっています.当院でも複数回超音波検査だけの外来も受診してもらい赤ちゃんの検査をしています.頭から心臓・腎臓などの内臓まで,ダウン症や18-トリソミーの徴候を含めて形態異常がないかどうかも検査項目に入っています.しかし,すべてがはっきりわかるわけではないけれども超音波検査も出生前検査の一つといえますから,たとえば,命には関わらない程度の異常なら,みつかってもそれは生まれるまで言わないでおいて欲しい,などの要望があれば是非外来でおっしゃってください. ・母体血清マーカーテストも羊水検査も当院では妊娠15週から検査が可能です. ・母体血清マーカーテストは判断の手がかりになる検査といえますが,結果が確率でしか示されないということは優れた検査ではないともいえます.示された結果の数値の判断に悩み,羊水検査を受けても,流産しないか結果が出るまで心配し,羊水検査を受けなければ今度は赤ちゃんが産まれてみるまで心配し,と悩みが増す方も出てくるでしょう.これらの検査の存在をどうとらえるか,誰もが妊娠すれば考えなくてはならない時代になったのだといえるでしょう.科学技術の進歩により,今後ももっといろいろなことが検査をしたらわかるようになってくると思われます.それらの検査の中からご自分で本当に必要なものだけを選んで行かなくてはいけないようになるのではないでしょうか. ・妊婦さんの中にはご自分の妊娠している赤ちゃんが産まれてきたらダウン症だったとわかっても,ご自分の子供であるから大切に育てたいとおっしゃる方も何人もおられます. ・ダウン症の人の家族の団体などは,このような出生前診断を行うこと自体に反対をしています.反面是非とも胎児の染色体検査をして欲しいという要求も妊婦さんから出てきます.私共はどちらの考えも間違っているとはいえないと思います.愛育病院も希望する方には検査を行いますが,それは世の中からダウン症の人を排除しようという目的ではないことをご理解下さい.誰も何がその人たちにとっての幸福なのかなどの価値観を押しつけることはできないのです. ・日本ではこのような出生前診断についての議論は,一般のみなさんの中ではまだまだ十分になされているとは言えませんし,法律的にも倫理的にも日本社会はどの方向とするか,考え方もまだ整理されているとは言えません.病院を受診される方も自分の判断で方針を決めていくということに慣れていない方がまだたくさんいらっしゃいます.外来の限られた時間の中で全員に充分説明するには限界があるため,また,この検査を必要としない方が大勢おられるため,検査の説明文書をお渡しして説明に代えています.それでは説明は充分ではないかもしれませんので.検査の希望や質問があれば外来受診時にお申し出ください.また今回この説明文を読まれたことで理解を深めて頂ければ幸いです.何かご質問のある妊婦さんは是非外来を受診されてご相談ください. (このほか愛育病院では育児支援や発達及び福祉の相談を心理福祉室にて行っています.)
文責 産婦人科医長 坂井昌人 |
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