※脊椎の手術によって金属などの人工物が埋め込まれている場合には、当院では麻酔分娩を行いません。
麻酔分娩で行う鎮痛(麻酔)の処置について
硬膜外麻酔と脊髄くも膜下麻酔を組み合わせる方法か、硬膜外麻酔単独の方法のどちらかの方法で行います。
処置内容は状況に合わせて麻酔担当医が決定しますが、ご希望などがありましたらお知らせください。
- 脊髄という神経の束が背骨の中にあります。脊髄のまわりは脳脊髄液という液体で満たされており、その周囲を「硬膜」という膜がおおっています。
【 硬膜外麻酔 】: 背中から針を剌して、硬膜の外側にある硬膜外腔というスペースに細いチューブ(硬膜外カテーテル)を挿入し、そこから麻酔薬を注入する方法
【 脊髄くも膜下麻酔 】: 硬膜の内側にあるくも膜下腔に麻酔薬を注入する方法 - 麻酔の注射の際は背中を丸くして、膝をお腹に近づけた体勢(背骨の間が広がる姿勢)になっていただきます。安全に麻酔を行うには、この姿勢が重要になりますので、ご協力をお願いします。
麻酔担当医が背中を触って位置を確認し、皮膚の消毒をします。次に、皮膚に局所麻酔の注射をします。これにはしみるような痛みを伴います。局所麻酔が効いたら麻酔の針を刺します。
痛みやしびれ、電気が走るような感じがあればお伝え下さい。注射の途中で体を動かすと大変危険ですのでご注意ください。 - 麻酔を開始すると、陣痛の痛みだけでなく、おへそのあたりからおしり、足先までの感覚が鈍くなり、痛みを感じにくくなります。感覚が鈍くなることで脚がしびれるように感じますが、異常なことではありません。脚を動かすことは可能ですが、力が入りづらくなる事もあるので、安全のために歩行も制限させていただきます。
長時間同じ姿勢でいた場合に、その体勢で圧迫を受けている体の部位(皮膚や神経など)が、床ずれと同じように圧迫によるダメージを受けることがあります。
麻酔分娩中は感覚が鈍くなり、痛みを感じにくい状態ですので、そのことに気がつきにくい状況です。
このような圧迫による障害を予防するためには、長時間同じ姿勢を続けないように、意識をして体勢を変えていただく必要があります。
麻酔分娩のメリット
- 最大のメリットは陣痛の痛みが和らげられることです。
- 麻酔の開始により、お産の進行がスムーズになる場合もあります。
- 妊娠高血圧症候群の産婦さんでは、お産中の血圧管理に有用であるといわれています。
- 分娩後に行う、会陰の縫合や出血に対する処置には痛みを伴いますが、これに対して鎮痛効果が高いことも麻酔分娩のメリットです。
- 麻酔分娩で背中に入れるカテーテルは、緊急帝王切開になった場合の麻酔にも使用することができます。このことは、緊急帝王切開の際に麻酔が難しいことが予想される、一部の産婦さんが安心してお産に臨むためにも有用だといわれています。
- 産後の体力回復(温存)が望めるかどうかについては、科学的なデータがありません。
お産の経過への影響
- 陣痛(子宮収縮)が弱くなることが多く、その場合には陣痛促進剤を使用します。陣痛促進剤とは子宮の収縮を強める薬で、痛みを強くするという意味ではありません。
陣痛促進剤は麻酔をしないお産でも使用しますが、麻酔分娩では陣痛促進剤を使用する産婦さんの割合が高くなります。 - 産道の出口付近でお産の進行が停滞しやすいため、鉗子・吸引分娩の割合が高くなります。
- 分娩時間が長くなる傾向にありますが、帝王切開になる可能性が高くなることはありません。
- 麻酔を開始するタイミングについては、子宮口が4-5cm開いてから麻酔を始めると、お産が順調に進みやすいと考えられていました。
最近では、産婦さん自身が麻酔を始めたいと思った時に開始するのがよいとも言われています。
当院では産婦さん本人と助産師、産科医で相談をして、開始時期を決めます。 - 麻酔分娩の開始は24時間対応していますので、陣痛発来がいつであっても麻酔を始めることができます。
- 経産婦さんの計画(誘発)分娩については、産婦人科外来にてご相談ください。初産婦さんの計画分娩に関しては、おすすめしていません。「麻酔分娩でも帝王切開率が増加しない」という説明は、自然な陣痛発来後の麻酔導入を原則とした過去の研究結果に基づいています。計画分娩ではこの説明に必ずしも当てはまるわけではありません。
赤ちゃんへの影響
- 硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔に使用する麻酔薬が、胎盤を通って赤ちゃんに与える影響は、ほとんどないことがわかっています。麻酔中は赤ちゃんの心拍を常にモニターします。
- 麻酔が効いた後に、一時的に子宮の収縮が強くなり過ぎることがあり、それにより赤ちゃんの心拍数が一時的に低下することがあります。このことは、その後の赤ちゃんの状態には影響がないことがわかっています。
産婦さんへの影響(麻酔の副作用・合併症)
麻酔による合併症の予防と早期発見のため、麻酔開始後からは血圧計などの生体モニターを装着した状態で過ごしていただきます。
麻酔分娩の経過中におこる可能性があるもの
かゆみ
麻酔薬の副作用で軽度のかゆみが出ることがあります。
脚に力が入りにくくなる
麻酔が強く効いたり、効き方にかたよりがあったりするときにおこります。麻酔薬を減らしたり、硬膜外カテーテルの位置を調整したりして対応します。
麻酔分娩の経過中に、途中で痛みが出ることがあります
麻酔薬を追加したり、硬膜外カテーテルの位置調整、再挿入をしたりして対応します。
血圧低下、気分不快
麻酔が通常より広い範囲に効くとおこることがあります。気分が悪くなったらすぐにお知らせください。
麻酔分娩の後におこる可能性があるもの
排尿障害
産道の出口付近でお産の進行が停滞して、長い時間、膀胱が圧迫されると、産後に尿意を感じにくくなったり、尿が出づらくなったりすることがあります。退院時までには軽快することが多いです。
感覚障害、運動障害、異常感覚
感覚障害や運動障害が残ることがあります。たいていは数日で軽快しますが、まれに数ヶ月から数年単位で持続することがあります。
原因を特定することは簡単ではありませんが、体の表面近くにある神経に長時間の圧迫などが加わったことでおこるものが多いと考えられています。
日常生活では神経に圧迫が加わっても、痛みやしびれにより無意識に体勢を変えて、圧迫を解除するため問題となりません。麻酔により感覚が麻痺している状態では、神経に圧迫が加わっても痛みやしびれを感じないために、圧迫された状態が長く続いて神経がダメージを受けてしまうことが考えられます。
一方、麻酔手技に伴う神経の損傷や局所麻酔薬の副作用が原因となる可能性はゼロではありませんが、まれなことだといわれています。
頭痛;硬膜穿刺後頭痛
硬膜外麻酔で硬膜にきずがついた場合や、脊髄くも膜下麻酔の後に針の穴から髄液が漏れ出ることがあり、これが原因で頭痛がおこることがあります。
起き上がると痛みが強くなり、横になると軽快するという症状であることが多く、たいていは数日間で改善します。
この頭痛により入院期間が延長することがあります。頭痛が持続するような場合には、麻酔の時と同様に背中に針を刺して、ご自分の血液を硬膜外腔に注入する「ブラッドパッチ」という治療法を行うことがあります。
脳脊髄液の減少により、ごくまれに頭の中で出血をすることがあります。入院中だけでなく退院後にも起こることがありますので、頭痛が強くなったり、けいれんしたりするようなことがあればすぐに診察を受けて下さい。
硬膜外血腫 ※非常にまれです
脊髄の周りに血のかたまり(血腫)ができて神経を圧迫することがあります。背中や脚の強い痛みや脚の麻痺などがおこります。病室に戻ってから症状が出る場合もあります。専門の施設での緊急手術が必要となります。このような症状に気がついたら、すぐにお知らせください。
局所麻酔薬中毒 ※非常にまれです
局所麻酔薬の血中濃度が過度に高くなり、めまいや耳鳴り、口周囲のしびれなどがおこることがあります。重症例では意識消失、けいれん、呼吸停止、不整脈、心停止がおこることがあります。
カテーテル遺残 ※非常にまれです
硬膜外カテーテルを抜去する際に、カテーテルがちぎれて身体の中に残ってしまうことがあります。取り出すために手術が必要になる場合があります。
注意事項
- 血液検査の結果で異常のある方(血液が固まりにくい・強い感染徴候がある)、腰椎周辺の病気をお持ちでしびれなど神経の症状がある方、腰椎の手術を受けたことがある方、麻酔の注射をする部位の皮膚、皮下に異常(湿疹や脂肪腫、粉瘤など)がある方など医学的な理由で麻酔分娩が行えない場合もあります。
- 麻酔分娩の開始前には2時間以上の禁食をお願いしています。
- 麻酔開始後は麻酔終了2時間後まで禁食となります。その間は水・お茶・スポーツドリンクおよび、食事の代わりに病院でお出しする飲料のみ摂っていただくことが可能です。
- 麻酔中は転倒の危険があるため、原則として歩行はできません。トイレに行っていただくことができないため、必要に応じて導尿を行います。
麻酔分娩学級 FAQ
帝王切開手術の麻酔や、麻酔分娩(無痛分娩)について、患者さん向けに説明したものが出ています。 わかり易く説明されていますので、興味のある方はぜひ下記のWebサイトもご覧ください。
麻酔分娩について、印刷用PDFはこちらです。
References about Labor Epidural in other language ※These are not our website.
- Pain Relief Options During Childbirth
An Educational, informative, and animated site by University of Maryland Medical Center Division of Obstetric Anesthesia
当院の分娩実績について